凍てついた朝の声

凍てついた朝の空気の中を
僕は一歩ずつゆっくりと歩いた。
どこにどれくらいの雪が積もっているかとか、
路面のどこが凍っているかまでは白杖ではなかなか判らない。
慎重にゆっくり歩くしかない。
外出を断念するとかタクシーを利用するのも選択肢のひとつだと思っている。
幸い僕が暮らす京都では、そんな日は一年に数日しかないから助かっている。
今朝はいつもの横断歩道までいつもの倍くらいの時間をかけてたどり着いた。
足裏で点字ブロックを確認してなんとなく安心した。
車のエンジン音で信号の青を確認するのだが、
その作業をしようと思った瞬間、
「青になりましたよ。」
耳元で若い男性の声がした。
人の気配さえ気づいていなかったというのは、
転ばないように歩くことに神経を集中させていたのだろう。
「ありがとうございます。助かります。」
僕は御礼を言って横断歩道を渡った。
その後、その声の主がどちらに動いたのかも判らなかった。
横断歩道を渡り終えて、そこからバス停までをまた慎重に歩いた。
もう冷たさは感じなかった。
うれしいという思いが身体まで暖かくしてくれたような感じだった。
声の主が中学生だったのか高校生だったのかそれとも大人だったのか、
僕には判ってはいない。
判ったのは男性だということ、人間のぬくおりのある声だったということだけだ。
何も画像のない中で聞こえるやさしい人間の声、
これは僕達にしか味わえないのだろうけど、
本当に素敵ですよ。
心までがポカポカするのですから。
(2016年1月26日)