ケナフの葉書

僕は時間の都合がつかなくてイベント会場には行けなかった。
僕に会えなかった少女は一枚の葉書をスタッフに託けた。
スタッフから連絡はもらっていたがそれを受け取る機会もなかなか作れなかった。
おまじないのように栄養ドリンクを飲みながら多忙な日々を過ごしていた。
スケジュール調整は自分でやっているので自己責任ということになる。
雪が舞う連休も早朝から家を出た。
同行援護の指導者研修の講師の仕事だった。
受講生は全国から集まるから休むことは許されない。
会場に着いて講義をする前から少し疲労感を覚えていた。
そのタイミングでスタッフから葉書を受け取った。
たまたまそのタイミングになってしまったというのが事実だ。
触った瞬間にそれは普通の葉書ではないことが判った。
ケナフという植物を使ったものだった。
少女の手作りだった。
「困っている人を見かけたら助けられる大人になりたい。」
少女の言葉が輝いていた。
出会ってから2年以上の歳月が流れていたことを知った。
やさしさが指先から身体に注入されていくような不思議な感覚になった。
表情が少しずつ柔らかくなっていくのを自覚した。
ちょっと大人になった少女に会ってみたくなった。
(2017年2月12日)