蜃気楼

琵琶湖ホテルに到着するとフロントで会議の部屋と開始時刻を確認した。
会議が始まるまでには1時間くらいあった。
僕はボランティアの学生に遊歩道の散歩を頼んだ。
彼女は笑顔で引き受けてくれた。
学校に関わっていると学生がいろいろな機会にいろいろな場所で協力をしてくれる。
僕の活動を支援してくれる。
今回の会議も慣れない場所で困っていたのだが彼女がガイドを引き受けてくれた。
有難いことだと思う。
図々しい僕は学生だと少々の無茶も言える。
今日も朝のラジオで「行楽日和」という天気予報を聞いた時から、
タイミングが合ったらホテルの前の遊歩道を歩きたいと思っていた。
ホテルの前の遊歩道はこれまでにも幾度か歩いた経験があったのだ。
琵琶湖の風に吹かれながらのんびりと歩いた。
春の日差しの中をゆっくりと歩いた。
階段に腰を下ろして琵琶湖のささやきにも耳を傾けた。
穏かな波だった。
目の前には琵琶湖があるのだが僕の脳裏には菜の花畑があった。
一面の菜の花畑だ。
学生がホテルの前に菜の花が咲いているのを教えてくれたからだろう。
だから僕の頭の中で琵琶湖が菜の花畑に変わったのだ。
僕だけちょっと得をした蜃気楼かもしれない。
見えるとか見えないとかどうでもい時もある。
つきつめれば幸せには無関係だ。
人生そのものが蜃気楼みたいなものなのかもしれないな。
こっそり微笑んで会議に向かった。
(2017年4月23日)