月見団子

中学校での講演の帰り道、
最寄りの駅まで先生が車で送ってくださった。
講演の感想や生徒達の様子などの会話の後、
月の話になった。
中秋の名月の翌日だったからだろう。
「松永さんは月見団子を食べましたか?」
先生は唐突に僕に尋ねた。
「名月は見ましたけど団子は食べてませんね。先生は食べたのですか?」
彼は昨夜のプライベイトの一場面を僕に紹介した。
小学校の娘さんと名月を見ながら団子を食べたとのことだった。
父親と娘の一場面はささやかな光の中にあった。
影絵のように僕の脳裏に浮かんだ。
それは柔らかな月光によく似合った。
車中には穏かな優しい空気が流れた。
「相手の表情が見えなくてコミュニケーションは大丈夫ですか?」
今日の中学生の質問の中にあったのを思い出した。
日常、表情が見えなくて困るということはない。
僕が鈍感ということもあるのかもしれないが、
人間同士はきっと見えないことを超えていく力を持っているのだろう。
人間ってなかなか素敵な生き物かもしれない。
(2017年10月6日)