アメちゃん

家を出たのは7時過ぎだった。
バス、阪急電車、地下鉄、近鉄電車と乗り継いで最寄駅に着いた。
待機してくれていた学校の関係者の車で専門学校に到着したのが8時50分。
入れてくださったホットコーヒーを啜って教室へ向かった。
2コマ連続の講義だった。
慣れているとは言え90分の講義にはそれなりのエネルギーも必要だ。
元々そんなに体力があるわけでもないし年齢も61歳になった。
180分立ちっぱなし、しゃべりっぱなしはきついものもある。
情熱だけが僕を支えてくれている。
講義を終えて講師室でほっこりしていた。
ささやかなリラックスタイムだ。
食事を済ませて午後の大学へ向かわなければならない。
突然誰かがドアをノックした。
僕が一人なのを確認すると彼女は部屋に入ってきた。
昨年僕の講義を受講していた学生だった。
「先生、はい、アメちゃん。」
彼女は笑顔で僕にアメちゃんを手渡した。
そして少しだけ会話して出ていった。
僕の講義を受けてから視覚障害者に声をかけられるようになったのだそうだ。
そうなった自分自身がうれしいとのことだった。
アメちゃんを口に含んだら甘酸っぱい味がした。
もうしばらくはこの仕事を続けたいと思った。
(2018年5月24日)