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確信

7時に家を出て最寄りのバス停よりも遠いバス停までわざと歩いた。
晴れ渡った朝の空気の中で目的があった。
そして確信もあった。
僕は白杖を左右に振りながら鼻をピクピクさせながら歩いた。
横断歩道を渡り、なだらかな坂道を降りて行った。
小川のせせらぎの音を聞きながら橋を渡った。
しばらくして僕の足が止まった。
僕の確信はやはり正しかった。
微かにキンモクセイの香りが漂っていた。
鼻腔は脳に直結している。
一瞬で幸福感が僕を包んだ。
それから僕は笑顔で歩いた。
バス停に着いて間もなくバスがきた。
結構混んでいる雰囲気だったので手すりを持った。
「ひとつだけ空いてますけど座りますか?」
女性が声をかけてくださった。
僕は喜んで座ることにした。
「それから、ズボンにひっつき虫がいっぱいついていますよ。」
彼女はそっと教えてくださった。
座席に座ってズボンを触ったら凄いことになっていた。
さっき歩いたせいだった。
でもなんとなくうれしかった。
秋がひっついてくれたような気になった。
バスは終点の桂駅に着いた。
さっきの女性が花壇の横の座れるところまで案内してくださった。
僕は彼女にお礼を言って別れた。
それからひっつき虫をひとつひとつ取った。
急いではいたが、全部取り終わってから空を眺めた。
どうしても眺めたくなっていた。
僕は顔をあげて空を見つめた。
澄んだ秋の空があった。
薄青色の空だった。
これも確信があった。
時間にしたらほんの数秒だっただろう。
空を見つめていたら涙がこぼれそうになった。
悲しいのかうれしいのか自分でもわからなかった。
確信はないから秋のせいということにしておこう。
(2018年10月4日)