一筋路地を入っただけで駅前の喧騒は嘘のようだった。
路地を少し進んだところにそのウナギ料理店があった。
小上がりを上がって掘りごたつに座るとおいしいお茶が出てきた。
食いしん坊の僕のために彼はちゃんと人気店の予約を取ってくれていた。
20人も入れば満員の店は僕達でいっぱいになった。
この店は注文があってからさばくので少し時間がかかるらしい。
他のお客様が注文される声が聞こえていたが、
やはりみなさん40分の時間を求められていた。
僕の忙しさを知っている彼は約束の時刻から逆算して注文を済ませてくれていた。
だから僕達にはそんなに待たずに料理が運ばれてきた。
四角いお盆にはうな重と肝吸いとお漬物が行儀よく並んでいた。
うな重の蓋を開けた瞬間香ばしい匂いが広がった。
一瞬で笑顔になった。
しかも、僕が楽しめるように関西風と関東風のウナギが載っていた。
そのままで少し食べた後、次に山椒をふってくれた。
味わいが変化していった。
肝吸いも端正で上品な味だった。
これほどおいしいと感じた焼きたてのウナギは初めてだったかもしれない。
僕はまんまと彼の計算通りに幸せになった。
そしてまた笑顔になった。
ひょんなことで彼と出会ってからもう10年以上になる。
最初は仕事で奥様と知り合ったのだが、いつの間にか彼との再会が楽しみになった。
僕が出張で東京に来た機会を狙ってだいたい毎年会っている。
特別に長話をするわけでもないし深刻な相談事があるわけでもない。
少しの近況報告をして、それぞれが元気で再会できたことを喜び合うという感じだ。
ひっつき過ぎず離れ過ぎずの関係は大人の男同士だからこそのものだろう。
絶妙の距離感のような気がする。
いつものようにホテルの部屋まで送ってもらって硬い握手をして別れた。
また来年もお互い元気で会えますようにと自然に思った。
(2018年12月17日)