寒蘭

春が始まった頃に寒蘭の植え替えをした。
寒蘭用の土を妹夫婦が送ってくれたのだ。
寒蘭を育てることが父ちゃんの趣味だった。
父ちゃんが亡くなった後、残った寒蘭の鉢植えを親交のあった人達と分けた。
僕は団地に住んでいるし、世話も大変なので一鉢だけ頂いた。
日当たり、水、温度、湿度、いろいろな条件を管理できないとなかなか花は咲いては
くれない。
毎年11月くらいになると、咲いてくれた花を父ちゃんはうれしそうに眺めていた。
飽きもせずずっと眺めていた。
僕も清楚で上品な花を特別に美しいと思った。
そして無言でそれを眺めている父ちゃんが好きだった。
僕が預かった寒蘭は一度も咲いてくれない。
僕にしたらある意味予定通りだ。
元々そう簡単に咲いてくれないことは知っている。
でも水やりの後しばらく眺めて美しいと感じている僕がいる。
咲かせられない負け惜しみでもない。
すっと伸びた葉っぱをそっと触ってそう感じるのだ。
あの頃、父ちゃんは花だけではなくて葉っぱの美しさも見ていたのかもしれない。
きっとそうだ。
最近そう思うようになった。
植え替えの後、葉っぱが元気になってきた。
活き活きとした深緑色の葉っぱに触れて笑顔になっている。
触れて色を感じるような気になることもなんとなくうれしい。
(2019年5月12日)