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ガラスコップ

さわさわの初めての研修旅行に出かけた。
中型のバスを借りて北陸まで出かけた。
たくさんのボランティアさんが協力してくださって実現できた。
一人の視覚障害者に一人のサポーターというベストの条件が整っていた。
仲間と一緒にお風呂に入ったり食事をしたり、くつろいだ二日間だった。
一人一人の声に耳を澄ますとそこにはお互いへのエールが感じられた。
生命のきらめきがあった。
かけがえのない人生があった。
僕自身を見つめなおす時間にもなった。
二日目の行程に視覚障害者が体験できそうな実習を職員が探してくれていた。
オリジナルデザインのガラスコップの制作だった。
シールを貼ったコップを工房のスタッフの人に機械で削ってもらうと、
そのシールの部分だけが削れないで残るというものだった。
ボランティアさんの目を借りながらそれぞれがガラスの色を選んだ。
それからシールの形や大きさを選んでコップに貼り付けていった。
ひとつひとつを手作業で削るのだからスタッフの人も大変だ。
1個が3分でできても1時間以上かかってしまうということになる。
浅く削れば時間は短縮できる。
でもスタッフの人はいつもより深く削っていかれた。
時間は刻々と過ぎていった。
削り終えた最後の1個を持ってスタッフの人は僕達の待機している場所に駆け込んで
こられた。
仕上げられたコップを持ってバスに乗り込んだ。
1分の遅れでバスは発車した。
見送ってくださったスタッフに向かって僕達は手を振った。
心を込めて手を振った。
僕はありがとうってつぶやいた。
削る担当ではない別のスタッフから僕はこっそり聞いていた。
僕達が手で触ってデザインを確認しやすいように、
削るスタッフの人はいつもより深く削っていかれたのだった。
そして最後までそんなことはおっしゃらなかった。
それぞれが作ったガラスコップはそれぞれの旅の思い出となる。
思い出に触れたらきっとやさしい笑顔になるだろう。
素晴らしい研修となった。
(2019年5月15日)