いつも歩いている道。
いつものバス停。
天候が悪いわけでもなかった。
あえて言い訳をすればちょっと疲れていたということくらいだろう。
早朝から夜遅くまでの仕事が続いていた。
でもそれも珍しいことでもなかった。
時々あることだった。
それなのに見事に失敗した。
整備された歩道上の分かりやすいはずの点字ブロックを探すことができなかった。
バス停を知らせるしっかりとした点字ブロックだ。
前方を白杖で探っても見つけられなかったので、
行き過ぎたと判断して折り返した。
「何かお手伝いしましょうか?」
バッチリのタイミング、そして模範解答のような言葉かけだった。
僕はバス停がどこか分からなくなってしまっていることを伝えた。
彼女は自分の手の甲を僕の手の甲にそっと触れてくれた。
僕は何の問題もなく彼女の肘を持つことができた。
彼女は僕が掴んだ手をまっすぐ伸ばしたまま、しかも脇をしめて歩いてくれた。
プロのガイドさんのようだった。
バス停はすぐ近くだった。
僕があきらめた地点からほんの数十センチ先だったのかもしれない。
見えないとはそういうことなのだ。
点字ブロックを確認した時にやっと、彼女の声が若いことに気づいた。
「学生さんですか?」
昨日福祉授業で訪れた中学校の一年生だった。
登校中の三人組の女子中学生だったのだ。
声かけもサポートも上手だったので中学生とはすぐには気づかなかった。
僕は驚いたがとてもうれしかった。
学んだことをすぐに実践してくれたのだ。
中学一年生ということは12歳か13歳ということになる。
50年後、彼女たちは僕と同じ年齢になる。
彼女達が創っていく未来、どうなっているのだろう。
ワクワクすりような気分になった。
(2019年6月21日)