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足音

駅の改札を出てから点字ブロック沿いにバス停まで歩く。
ほとんど何も問題はない。
たまにゆっくりと歩いている高齢者がおられるので、
後ろからぶつからないように気をつけるくらいだ。
でも、その道の両側にあるお店を利用するとなったら一苦労だ。
右側には和菓子屋さん、ラーメン屋さん、カフェが並んでいる。
左側にはロッテリアがある。
頭の中で地図はできあがっているのだが、お店の入り口まではたどり着けない。
完全に勘の世界だ。
スマートフォンのカメラで風景を撮影しながらボランティアさんの目を借りるという
アプリもあるらしいが僕は利用していない。
立ち止って足音に援助依頼の声を出す。
急ぎ足の音、おしゃべりに夢中の人達などは避けた方がいい。
僕の方に向かいながらも遠回りしている音も避けた方がいい。
足音が日本人なのか外国人なのか、男性なのか女性なのか、大人なのか子供なのか何
もわからない。
声を出すタイミングも早過ぎず遅過ぎず、
そしてはっきりと聞こえるように言わなければいけない。
見えなくなった最初の頃は小さな声で「すみません。」とつぶやいていた。
勿論、足音は通り過ぎるだけだった。
すみませんとお願いするよりも、
直接目的を伝えた方が止ってくださりやすいというのも経験で学習した。
タイミング、声の大きさ、聞き取りやすさ、すべてが技術なのだろう。
笑顔で頼んだ方がいいと言われるがなかなか余裕はない。
結構こわばった表情なのかもしれない。
2,3回のトライで成功したら有難いのだが、
10回ともなれば少しへこんでしまう。
久しぶりにラーメン屋さんに立ち寄ろうと思った。
頭の地図でだいたいの場所までたどり着いた。
深呼吸をして気合を入れている間にもいくつかの足音が通り過ぎていった。
いい感じのスピードの足音が近づいてきた。
「ラーメン屋さんの入り口を教えてください!」
足音の持ち主は止って笑顔でおっしゃった。
「どうぞ肘を持ってください。」
爽やかな女性だった。
ほんのスウメートル先が入り口だった。
「ありがとうございました。一発で止まってもらえました。」
僕はそう言いながらお店に入った。
運ばれた野菜炒め定食を食べながらふと思った。
ありがとうございましたは通じても、
一発で止まったというのは伝わらなかったかもしれない。
言葉って難しい。
伝えるって難しい。
とにかく、止まってくださる人のお陰で僕の毎日は成り立っている。
止ってくださった皆様、ありがとうございます。
(2019年9月17日)