やせ我慢

電車がホームに入ってきた。
ドアが開いた。
白杖で乗降口を確認して身体を押し入れた。
予想はしていたがやはりとても混んでいた。
僕は入り口の手すりを握りしめた。
身動きもできない状況だった。
昨日は四天王寺大学での講演だったので羽曳野市まで出かけた。
移動だけで往復5時間かかった。
そしてまた今日は早朝から枚方市へ向かっていた。
高校での授業が待っていた。
しかも午前中連続の授業だった。
我ながら体力はあるなと思いながら立っていた。
やせ我慢かなとも思いながら立っていた。
次の駅で僕のいる側のドアが開いた。
僕は押されないようにまた必死に手すりを握りしめた。
「松永さん、端が空いたのでどうぞ。」
男性の声がした。
名前を呼ばれたということは僕を知っておられるということだった。
僕は感謝を伝え、ポケットからありがとうカードを取り出してそっと渡した。
「うれしいなぁ。これが噂のカードですね。」
男性は本当にうれしそうにおっしゃった。
僕は気恥ずかしさもあったが素直にうれしかった。
僕からの感謝の言葉のカードで喜んでくださる人がいる。
光栄なことだと思った。
そしてまた元気が出てきたのを感じていた。
思いを込めて伝えていく。
昨日の大学生、今日の高校生、
若者達が僕の年齢になる頃には僕はもうこの世にはいないだろう。
でも、未来に向かって蒔いた種はきっと芽を出してくれる。
そう信じてるからこうして頑張れるのだ。
いい年をしてと笑われるかもしれないがそれでも構わない。
まだまだ頑張る。
もっともっと頑張る。
そう自分に言い聞かせたら笑顔になった。
やっぱりやせ我慢なんかじゃないよ。
(2019年11月9日)