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バイバーイ

たまたまそうなるだけのことなのだがハードスケジュールになることがある。
今もその状態だ。
早朝から夜までの仕事が続く。
二週間くらいは休みはない。
その間に数日は京都を離れる。
移動距離はどれくらいになるのだろう。
出会う人の数も半端じゃない。
先を考えるとちょっと辛くなったりするので考えない。
今日と明日の予定だけを確認して過ごしている感じだ。
楽天家という性格もいいのだろう。
それでも気休めみたいに栄養ドリンクを飲んだりする。
今朝も7時過ぎには家を出た。
健康を意識してバス停二つ分は歩いた。
バスと電車を乗り継いで大学に向かった。
学生の成績確定のために教務課との打ち合わせだった。
それが終わって京都駅に買い物に行った。
夜に打ち合わせで出会う関係者へのお土産を買うためだ。
岐阜県と島根県からの来訪者なのでほんの少し京都の香りを届けたいと思ったのだ。
買い物はガイドさんに手伝ってもらって無事終了した。
そこからはまた単独でさわさわに向かった。
理事長なのでたまには覗かなければと思ってはいるがなかなか時間が取れない。
せめて一か月に一度はと思っている。
一時間程過ごしてから地下鉄で九条駅まで向かった。
中学校での講演の予定が入っていた。
改札口で先生と待ち合わせて学校まで歩いた。
約二時間、中学生達との楽しい時間を過ごした。
「困っていそうな視覚障害者を見かけたら声をかけます。
皆が暮らしやすい未来を私達が創っていきます。」
最後に挨拶をした生徒は自分の言葉で心を語った。
僕は清々しい気持ちで学校を後にした。
夕方の会議のスタートまで約一時間、地下鉄とバスを乗り継いでライトハウスまで行
かなければならない。
九条駅は年に数回しか利用しないので頭の中に地図はない。
点字ブロックを確認しながら慎重に歩いた。
こんな時こそ慌てるのが危険と自分に言い聞かせている。
見えないで歩いているという事実を客観的に認めるのが大切だ。
ホームの点字ブロックを確認して安心した。
それから、その先のルートを頭の中でシュミレーションした。
北大路駅で電車を降りてバスターミナルに移動するには、
ホーム上を現在の電車の先頭位置から最後尾まで移動しなければならない。
また慎重に歩かなければと気合を入れた時だった。
「駅の係り員ですが、乗車されるまで横で見守ります。」
声をかけてくださった。
白杖を見かけて来てくださったのだろう。
僕は感謝を伝えながら、ホームの端までの移動のサポートをお願いした。
駅員さんは僕が線路側を歩くことになるので左右入れ替わった方がいいのではと提案
されたが、
それは歩きにくくなってしまうことを説明した。
それから駅員さんの後ろで一列になるようにして歩いた。
端まではだいぶ距離があった。
「電車は今隣の駅に着いたところですから、十分間に合いますからね。」
駅員さんはそう言いながらゆっくりと歩いてくださった。
「最後尾に着きました。」
駅員さんの言葉と電車到着のアナウンスが同時に流れた。
間もなく電車がホームに入ってきた。
「席が空いているので案内します。」
駅員さんは一緒に電車に乗り込んでドアの近くの席に案内してくださった。
北大路駅までの20分を座って過ごせることになったのだ。
「ありがとうございました。助かりました。バイバーイ!」
電車を降りていかれる駅員さんに僕は大きな声でお礼を伝えた。
ちゃんと伝えたかったので周囲に聞こえる大きな声になってしまった。
ドアが閉まる時に我に戻った。
僕は笑顔で駅員さんの方に向かってバイバイと手を振ってしまっていたのだ。
よっぽどうれしかったのだろう。
それからその光景を想像して少し恥ずかしくなった。
子供みたいにバイバイってしてしまっていたのだ。
これも見えていないからできてしまったということなのかなぁ。
でも、しっかりとお礼を伝えられたのだからいいことにしようと自分に言い訳をしな
がら乗車時間を過ごした。
悲しみは疲れを倍増させてしまう。
うれしい気持ちは疲れを吹き飛ばしてくれる。
僕は気持ちをリセットしてライトハウスに向かうバスに乗った。
駅員さん、ありがとうございました。
(2020年1月25日)