躊躇

二か月ほど巣ごもり状態だった。
専門学校での仕事が6月から始まったので以前と同じような感じで学校へ向かった。
久しぶりの通勤だった。
頭の中の地図を辿りながら慎重に歩いた。
ポイントは白杖で確かめつつ音もしっかりと聞くように心がけた。
鈍っていた感覚を少しずつ取り戻すような作業だった。
阪急烏丸駅の西改札を出ようとして迷ってしまった。
点字ブロックの場所が変わってしまっていたのだ。
駅員さんに尋ねようとしたが、その場所さえ分からなくなっていた。
足音に声をかけようとしたが、躊躇してしまう僕がいた。
数か月前にはなかったことだ。
ソーシャルディスタンスとか3密とかの言葉が脳裏をよぎった。
いくつか足音が通り過ぎたが、サポート依頼をする勇気が出なかった。
僕は自分の勘を頼りに少しずつ動いた。
やがて、右側で券売機の音がした。
券売機を背にしてまっすぐ行けば階段がある筈だ。
成功した。
ほっとした。
点字ブロックの場所が少しずれただけ、きっと見える人には問題ないだろう。
点字ブロックの方向や分岐点の位置を地図として使う僕にとっては大問題だ。
それにしても、このウィズコロナの社会に僕達はどう関わっていけばいいのだろう。
一定の距離を保ってのサポートは難しいだろう。
今まで通りに社会に参加したいし、
勿論、他の人に迷惑もかけたくない。
しばらくは悩める日々になりそうだ。
(2020年6月6日)