ウグイス君

ウグイス君の鳴き声に気づいたのは冬が終わろうとしている頃だったと思う。
散歩コースの川べりの草むらだった。
春告げ鳥だなと思った記憶がある。
その近くを通ると鳴き声で足が止まった。
最初はホーホケキョには程遠い鳴き方だった。
ケキョケキョみたいな感じだった。
「頑張れ、頑張れ!」
僕は幾度か声をかけた。
ウグイス君はなかなか上手にはならなかった。
優等生ではなかった。
散歩の途中でいつも観察していた。
「ちょっとだけうまくなったよ。」
僕はそれも伝えた。
人間は他の動物の言葉をわからない。
でも、動物たちは人間の言葉を理解しているのかもしれない。
子供の頃から時々そんなことを感じることがあった。
証拠は何もないんだけど、今でもどこかでそう思っている。
だから僕は声に出して言うことが多いのだろう。
今朝、初めて「ホーホケキョ」が聞こえた。
幾度も聞こえた鳴き声の中の一回だけだった。
しばらく聞いていたが、他はホーホケケキョケキョなどだった。
声もだいぶ大きくなっていた。
少し自信がでてきたのかな。
実力が伴っていないのに、えっへんと鳴いているのを愛おしく思った。
自分自身を重ねていたのかもしれない。
10回の失敗を忘れて一回の成功だけをうれしそうに憶えている。
ウグイス君と親友になった気がした。
(2020年6月10日)