Zoomでの講義

ウィズコロナの状況で僕の日常にもいろいろ変化がおきている。
今日の大学の講義はZoomを使って自宅で実施した。
去年までは電車やバスを乗り継いで出かけていた大学だ。
毎年、教室には100人程度の学生達がいて講義を受けてくれていた。
学生達と一対一で向かい合って会話をしたりすることもあった。
講義が終わって学生達が教室を出ていく時にカードを手渡しでプレゼントしたことも
あった。
Zoomということは空間には誰もいない。
僕の部屋に僕がいるだけだ。
パソコンの向こう側には学生達がいるはずなのだが実感はない。
不思議な感覚で講義をスタートした。
でも、ほんの少しやっただけで気づいた。
何も変わらない。
大学の教室でも僕の部屋でも、僕の目の前は何も変わらない。
変わることのない灰色が横たわっているだけなのだ。
それに気づいたらだいぶ楽になった。
僕はいつもと同じように思いを込めて話をした。
あっという間に講義の時間が過ぎた。
学生達はチャットを使って質問を投げかけた。
それは僕には分からないのでサポートしてもらった。
「お手伝いをする時にどう声をかければいいですか?」
「もっとどんなものに点字があればいいですか?
突然声をかけてもいいのですか?」
「バイト先に視覚障害者の人とガイドさんとが来られるのだけど、どちらに話しかけ
るのがいいですか?」
それは困っている視覚障害者にサポートをしたいという気持ちの表れだった。
そしてその気持ちを僕に届けようという意思だった。
100人の学生が話を聞いてくれて100人が動くとは思わない。
でも、必ずいくらかの人達が思いを受け止めてくれているのは感じる。
例えその数が10人だとしても、10回で100人になる。
10人が3人の友人に伝えてくれれば30人になる。
きっと未来につながっていくと僕は信じている。
Zoomを使っての講義でもそれを感じることができたのはどうしてだろう。
画像も実際の音声もない。
それでも学生達が何かを伝えてくれたのだろう。
人間同士が持っている力のひとつなのかもしれない。
対人でもZoomでも録画でも、僕はいつも通りに頑張ればいいんだ。
そんな気になった一日だった。
(2020年7月11日)