若者

僕はプラットホームの点字ブロックの上に立って電車を待っていた。
耳だけはアナウンスに集中し、それ以外の感覚は自由にさせていた。
白杖の先端を地面につけてグリップ部分を両手で持って立っていた。
白杖の長さは身長の胸くらいまである。
そのポーズになればリュックサックを背負った背筋が少し伸びる感じになるのだ。
そしてそっと空を見上げる。
顎を少しあげて空を眺める。
自分でも好きな時間だ。
やがて、京都駅方面の電車の到着のアナウンスが流れた。
白杖を持つ手に少し力が入った。
緊張だ。
画像のない状態で乗降口を探す。
他の人にぶつからないようにしながら乗車しなければいけない。
降りてくる人の足に白杖がひっかかってもいけない。
慎重にそしてスピーディに動くのがコツだ。
ホームと電車の間に落ちてしまうなんてとんでもない。
ほんの数十秒の間の大仕事なのだ。
電車の音が近寄ってきて停車する直前だった。
「よろしかったらお手伝いしましょうか。」
ちょっと自信なさそうな小さめの声が隣から聞こえた。
僕は咄嗟に彼に反対側に立ってもらって、そして肘を持たせてもらって乗車した。
乗車してすぐに依頼した。
「座席が空いていたら教えてください。」
彼は近くの席に誘導してくれた。
僕はありがとうカードを渡してしっかりと感謝を伝えた。
声からして高校生か大学生くらいの年齢だろう。
勇気を振り絞って声をかけてくれたのかもしれない。
初めての経験だったのかもしれない。
僕はうれしかった。
僕が高校生の頃、障害者の人に声をかけるなんてできなかった。
差別していたわけではなかったと思うのだがハードルが高かった。
僕を座席に案内してからどこかに去った彼をかっこいいと思った。
こういう若者たちが作ってくれる未来、ほんの少し輝いて見える。
そう思ったら笑顔になった。
(2020年11月10日)