赤の他人

用事が終わったのは夕方だった。
四条烏丸まで友人が車で送ってくれた。
友人は地下に向かう階段の入り口までサポートしてくれた。
車を停車してのことだから大変なのは分かっている。
苦にせずにやってくれるのは彼のやさしさだろう。
いつもそんな感じだから元々そういう人なのだろうと思う。
僕も真似しなければと思う瞬間だ。
彼と別れて階段を降りていった。
地下に着いてからはどっちに行ったらいいのかは分からなかった。
これは予定通りでそこから先は自分で探すつもりだった。
車も自転車も通らないし危険は少ない場所だということは分かっていた。
知らない場所はどうやって行くのかという質問を受けることがあるが、
音や雰囲気を確認しながら白杖で探すという感じかな。
白杖でウロウロと探し始めた時だった。
「どこまで行かれますか?」
若い女性の声だった。
僕は阪急烏丸駅に向かっていることを伝えた。
彼女は同じだからとサポートを申し出てくれた。
僕は彼女の肘を持たせてもらってスイスイと駅に向かい、同じ電車に乗った。
彼女は僕より二つ前の駅で降りるとのことだった。
それなりに混んでいたので僕達は入り口の近くで立ったまま少し会話を交わ下。
大学時代に全盲の友人がいたらしい。
彼女はそれがきっかけで僕達に声をかけられるようになったと話してくれた。
喜んでもらえるとうれしいとも話してくれた。
彼女が降りるまでのわずか5分程度の乗車時間、お互いの人生が交差した。
「またお見かけしたら声をかけますね。」
彼女はそう言い残して降りていった。
爽やかな空気が残っていた。
実際は再会する可能性はほとんどないだろう。
赤の他人という言い方がある。
見えなくなってから赤の他人との遭遇は増えた。
そのほとんどはやさしさに満ちている。
見返りを求めないやさしさを愛と表現するのなら、
確かに人間と言う生き物は愛に満ちているのだと思う。
それに触れる度に幸せを感じる。
そして感謝の気持ちが僕を包んでくれる。
ささやかな真実だ。
(2021年10月14日)