南京黄櫨

僕は車の助手席でパソコンのキーボードを叩いていた。
このところ忙しくて仕事に追われている。
できる時に少しでもやっておきたいという心理なのだろう。
ボランティアさんが車を運転しながらそっと教えてくださった。
南京黄櫨が赤く染まりだしたらしい。
僕の手は止まった。
そして視線が車のドアの向こう側に向かった。
この街で暮らし始めた頃、僕はまだ見えていた。
赤、黄色、緑、茶色、秋が彩った街を覚えている。
美しい絵画のようだった。
思い出が走馬灯のように脳裏に浮かんだ。
もう一度、しっかりと目を開いて外を眺めた。
思い出が生きていてくれたことを有難いと思った。
今年も秋がきてくれたのだとしみじみとうれしくなった。
空が高くて蒼いのを確信した。
道に積もった落ち葉の上を歩きたいと思った。
(2021念11月6日)