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グッチのサングラス

打ち合わせが終わり、
カップに残っていたコーヒーを飲み干して、
リュックサックを背負って、
たたんでいた白杖を元に戻した。
準備万端、最後に、テーブルの上に置いていたサングラスをかけようと持った瞬
間、
左側の耳にかける部分がポロリと外れた。
一瞬、何が起こったか判らなかった。
打ち合わせをしていた相手の女性が、
すぐに見てくださり、
ネジが取れて無くなっているのを教えてくださった。
テーブルの上、足元、探してくださったが、
ネジは見つからなかった。
白杖で、単独で移動することの多い僕にとっては、
サングラスは必需品だ。
白杖では確認できない空中の物体、
例えば、木の枝、お店の看板、バスの中の縦の手すりの棒、
しょっちゅう顔に当たる。
サングラスが、クッションの役割をしてくれる。
だから、一歩外に出て動き始める時、必ず、僕の顔にはサングラスがある。
白杖、リュックサック、サングラス、
いつもの三点セットだ。
昔は、100円ショップのサングラスをかけたりしていたが、
最近は、グッチというブランドのものが多い。
特別に、ブランドが好きなわけではない。
お誕生日プレゼントなどに頂いたのが、
たまたまグッチで、しかも、数人から頂いたので、
グッチのサングラスが複数あったのだ。
道具としては、100円ショップもグッチも同じなのだけれど、
庶民の僕は、グッチで、ちょっと優雅な気持ちになっているのは事実だ。
でも、結局、やはり、いろいろなものにぶつかって壊れていく。
僕達にとっては、消耗品になるのかな。
今回も、さすがにあきらめたのだけれど、
その女性が、打ち合わせのカフェの近くの眼鏡屋さんへ連れて行ってくださった。
対応してくださった店員さんは、
僕を椅子に座らせて、数分後には、
新しくネジをはめてちゃんと直ったサングラスを、
僕の顔にかけてくださった。
恐々と、「おいくらですか?」と尋ねる僕に、
「御代は要りません。」
一瞬で、僕は笑顔になった。
サポートしてくださった女性が、
店を出ながら、
「グッチが、笑顔に似合いますね。」
そう、僕は、ただ目が見えないだけの、
正真正銘の庶民です。
眼鏡屋さん、ありがとう!
(2012年9月26日)