朗読

僕はこれまでに3冊の本を世に出すことができた。
幸運だったと思う。
凡人が思いだけで書いたのだから中身はまあまあというレベルだろう。
ただ社会にメッセージを発信するツールとしては大きな力となった。
「活字には力があるのよ。」
僕に最初に本を書くことを勧めてくださった方はそうおっしゃった。
彼女は現役の頃、大手の出版社で推敲の仕事をしておられたらしい。
我儘でなかなか書かない僕に辛抱強く寄り添ってくださった。
彼女との出会いがなければ本を書くことはなかったと思う。
人生にはきっと運命のような出会いがあるのだろう。
本のお陰で僕を知ってくださる人も多くなったし講演などの機会も格段に増えた。
彼女の言葉通りに活字は力となったのだった。
終末病棟で亡くなられる三日前に僕は彼女に直接感謝を伝えた。
彼女はきっと最後の力で僕の手を握られたのだと思う。
「書くことは貴方の使命なのよ。」
その言葉はこうしてホームページのブログにもつながっている。
本はいろいろな人が購入してくださっただけでなくあちこちの図書館などにもある。
もう年月が経ったのだが今でも手に取ってくださる人がおられるようだ。
そしていろいろな形で読んでくださるのもある。
地域の録音図書の蔵書にしたいという申し出も多くあった。
インターネットでも朗読をしてくださっている人達がある。
活字が朗読によってまた違う味覚を備えている。
まさにそれぞれに関わる人の個性が深みや味わいを付けていくのだろう。
僕は幾度かインターネットでも対面でも聞く機会があった。
書いた筈の僕自身が引き込まれてしまったりする。
これもまた力なのだろう。
人間が創造していく文化だ。
(2022年10月11日)