セミ

日中は暑いので庭仕事は早朝にすることにした。
最近は4時には目が覚めてしまうので丁度いい。
起きてすぐにでも始めたい気はあるし始められる。
光を確認できない僕にとっては夜も昼もあまり関係はない。
でも暗闇でごそごそしていたら近所の人に怪しまれるかもしれない。
だからコーヒーを飲みながら日の出を待つことにした。
天気予報では今朝の日の出は5時だった。
僕は5時前には長袖の作業服に着替えて蚊取り線香を持って待機した。
5時のニュースを聞いてそれから庭に出た。
空気は少しひんやりとしていた。
予定の場所に発泡スチロールの板を置いて腰掛けた。
それからバケツを左に置いて草抜きを始めた。
小さなスコップで根から抜くようにしている。
それでも後から後から生えてくる。
その強さ、たくましさ、少しでいいから僕にも分けて欲しいと思う。
夢中になって草を抜く。
セミが鳴き始める。
突然の合唱のスタートだ。
指揮者がどこにいるのか知らないがとにかく見事だ。
セミも生き物だから病気やけがで目が見えなくなることもあるだろう。
ふとそんなことを考える。
白杖を持って飛ぶわけにもいかない。
考えを巡らしながらも手は止まらない。
見えなくなったセミも頑張れよ。
手を休めてセミの声のする方を眺める。
僕もセミも夏の中で生きている。
(2023年7月27日)