うなぎ

東京の友人がうなぎを食べに連れていってくれた。
高田馬場にあるうなぎの専門店だ。
ちなみに僕は大のうなぎ好きだ。
あのタレの香りをかぎながらうなぎを食べると間違いなく幸せを感じてしまう。
視覚はないのだから味覚と嗅覚だけで食べる。
最高級の幸福を感じられるのだから、僕にとったら不思議な料理なのだろう。
彼と会うのは3年ぶりだった。
コロナ禍だったので、会うことそのものを自粛していた。
十数年前、仕事で彼の奥様と出会ったのがきっかけだったが、
いつの間にか彼と会うことが楽しみになった。
とにかく博識だ。
やさしさもさりげない。
話をしていても肩が凝らない。
いい距離感なのだろう。
心から喜べる再会をできるのはこれもまた幸せというものだろう。
うなぎが好物と言っても、そんなにショッチュウ食べられるわけではない。
土用にウナギ屋さんというのも初めての経験だった。
ふとウナギ屋さんの記憶を振り返って気づいた。
行ったことのあるウナギ屋さんをいくつもはっきりと憶えているのだ。
若い頃、高校時代の友人と初めて行ったうなぎ専門店が京都駅前の江戸川だった。
四条河原町のかねよは専門学校の教え子が連れていってくれた。
嵐山の廣川は見えていた頃の同僚達と行った。
岩倉木野にある松乃鰻寮はミニコミ誌の編集者が連れて行ってくださった。
東京の神楽坂のたつみやでは出版社の人と打ち合わせをした。
ジョン・レノン御用達の店と知って驚いたのを憶えている。
故郷の鹿児島市では妹が、薩摩川内市では従妹が、それぞれ地域の名店に連れて行っ
てくれた。
この忘れん坊の僕がほぼ完ぺきに憶えているのだ。
滋賀県に引っ越してきて、早速えんというウナギ屋さんを見つけた。
よっぽど好きなのだろうと自分自身でも驚く。
ちなみに高田馬場のウナギ屋さんは愛河、きっとまた記憶に残るのだろう。
幸せな香りのする記憶だ。
(2023年7月31日)