生姜湯

音が消えてしまったような静けさにもしやと思った。
ダウンコートを羽織って圧手の靴下を履いた。
それから、まだ暗いはずの戸外に出てみた。
玄関から数歩動いただけで靴の裏が確認した。
僕はしゃがみ込んでそっと地面に手を触れた。
雪。
立ち上がって少し歩いた。
この冬初めての雪景色がそこにあった。
それから空を見上げた。
いつもワクワクドキドキする高揚感はなかった。
雪が北陸も覆ってしまっているだろうと考えてしまった。
つい奥歯に力が入った。
部屋にもどってお湯を沸かした。
コーヒーカップを温めてから生姜湯の粉を入れた。
沸きたてのお湯を注いだ。
フーフーしながら生姜湯をすすった。
胃袋が温まり、身体が温まり、心が温まるのを感じた。
生きているって凄いことなんだ。
生きていくって凄いことなんだ。
僕の心臓は半世紀以上動き続けている。
僕の脳は半世紀以上考えてきた。
僕の心は半世紀という時間の中で数えきれないくらい折れてしまった。
そしていつもそこから歩き始めている。
それも含めて幸せなことなのだ。
訳もなくそう思った。
(2024年1月9日)