二重瞼

「オッケーGoogle、今何時?」
目覚めた僕はベッドの中でつぶやく。
「時刻は4時38分です。」
Googleホームが教えてくれる。
4時台が多いが、3時台に目覚めることもある。
すっかり早寝早起きになってしまった。
3時33分や4時44分と聞くとなんとなくうれしく感じたりもする。
5時くらいをめどにベッドから起き出す。
トイレの後洗面台に向かう。
歯磨きチューブの蓋を開けて直接口に入れる。
見えていた頃はチューブを歯ブラシにつけていたが難しい作業となってしまった。
歯磨きをして顔を洗って洗髪もする。
それからコーヒータイム、毎日変わらない日課だ。
ニュースを聞き、それからクラシック音楽かピアノ音楽を聞く。
すべてGoogleホームがやってくれる。
クラッシックもピアノ曲もほとんど曲名は分からない。
教養の無さをしみじみと自覚する。
それでも心地よい気分になれるからいいのだと自分を納得させている。
コーヒーの香りによく似合う音楽なのかもしれない。
ふとたまにGoogleホームに尋ねる。
「今日の日の出は?」
光を分からない僕には意味のない質問かもしれない。
けれどもたまに尋ねてしまう。
何故だか自分でも分からない。
時々知りたくなるのだ。
不思議だと思う。
「今日の日の出は6時58分です。」
冬の夜の深さを再認識する。
それから瞼に力を入れて目を見開く。
開いても閉じても目の前に変化はない。
昔はここにいろいろな景色があったんだと懐かしくなる。
先日最後の授業の後に職員室に挨拶にきてくれた女子高生の言葉を思い出す。
いくつかの話の後に彼女は突然言った。
「二重!」
最初は意味が分からなかった。
僕が二重瞼ということらしい。
柔らかな視点をやさしく感じた。
(2024年1月29日)