12歳

京都市内にある小学校の福祉授業に出かけた。
京都五山の送り火のひとつ、妙法の山すそにある小学校だ。
ここの校長先生は担任をしておられた頃に出会っている。
僕のことを憶えていてくださっているのだ。
そして僕が子供達に出会う機会を作ってくださる。
そういう校長先生とか教頭先生とかが結構おられる。
それだけ長い時間活動を続けてきたということだろう。
とにかく有難いことだ。
今日は6年生が対象だった。
40名くらいの子供達、一生懸命に話を聞いてくれた。
僕の問いかけにも素直に答えてくれたし、質問もしてくれた。
学び合うというのは不思議な力を持っている。
教室の空気がどんどんやさしくなるのだ。
あっという間の2時限の授業だった。
教室を出て帰ろうとした時だった。
一人の男の子が追いかけてきた。
「僕、誰かを助けられるような人になります。」
少年の声は少し涙ぐんでいた。
真剣さが伝わってきた。
もう一人の女の子は握手しながらつぶやいた。
「お話を聞けて良かったです。」
6年生くらいになると心はだいぶ大人に近づいているのだろう。
メッセージをうれしく感じた。
学校の最寄り駅から地下鉄に乗車して帰路に着いた。
途中で乗り換えてJR山科駅までの30分、ずっと立ったままだった。
この時間帯だったらどこかの席がきっと空いているだろう。
手すりを持って立ったまま、やはりちょっと悲しかった。
山科駅から湖西線の電車に乗り換えた。
地下鉄と同じようにいつものように、僕は入り口の手すりを持ったまま立っていた。
「車掌ですけど、お座りになられますか?」
若い車掌さんの声だった。
これまで別の私鉄などで幾度かの経験はあったが、JRのこの路線では初めてのことだ
った。
「座りたいです。うれしいです。」
僕は車掌さんにサポートしてもらって座った。
幸せだなと心から思った。
電車に揺られながら、さっきの少年を思い出した。
きっとこの車掌さんみたいな人になってくれるだろう。
そんなことを考えていたら、幸福感が2倍になったような気がした。
12歳と過ごした時間、いい時間だった。
(2025年9月4日)