天使の声

いつもは20分くらいで駅に着くはずのバスが、
渋滞にまきこまれて、40分近くかかってしまった。
大学のゼミの学生達への講義が、
9時10分、ライトハウスという予定だ。
僕は、いつもの四条大宮からバスというルートを、
タクシーに変更することにした。
横断歩道を渡り、バス停を越え、
社会の邪魔にならないと思われる場所まで移動して、
人の足音を待った。
画像のない僕にとって、流しのタクシーを停めるというのは難しい。
見える人に手伝ってもらうしかない。
待っている時には、なかなか現れないのは、不思議なものだ。
しばらく立っていても、足音は聞こえなかった。
あせりながら、何も景色のない空間に向かって、
「誰か手伝ってください。」
独り言がこぼれた。
その瞬間、
「どうされました?」
声が聞こえた。
僕にしたら、天使の声だ。
「タクシーを停めてくださいませんか。」
天使は、きっと朝の慌しい時間に違いないのに、
引き受けてくださった。
しばらくして、タクシーが捕まった。
「左ななめ前です。」
天使の声が誘導した。
僕がタクシーに乗車した時、天使は、運転手さんに向かって、
「お願いします。」と言った。
家族でもないし、友人でもない。
それなのに、僕のことを頼んでくれた。
タクシーがライトハウスに着いたのは、
9時03分だった。
セーフ。
朝から天使に出会った。
素敵な一日の始まりになった。
(2013年1月17日)