未来の女医さん

春の桜、秋の紅葉、京都にはたくさんの観光客が訪れる。
駅も人でごった返す。
今朝の桂駅でもそれは始まっていた。
春休み、金曜日、あちこちの桜が五部咲き、七部咲き。
仕方ない。
僕は、いつもより集中力を高めて、ホームで電車を待っていた。
ふと、少女の声がした。
「松永さんですね。」
少女は、一昨年、学校で僕の話を聞いてくれていて、
憶えていてくれたのだ。
しっかりと自己紹介をして、サポートを申し出てくれた。
僕達は、偶然、行き先の駅も同じだった。
僕は、少女のサポートを受けることにした。
ラッシュアワーのような混雑した電車に、
少女は上手に僕を誘導した。
電車に乗り込むと、僕の手をとって、手すりを触らせてくれた。
それはとても自然で、まるで、訓練を受けたガイドさんのようだった。
電車の中での短い会話で、
少女がお医者さんを目指していることが判った。
少女のやさしさと、冷静な判断力は、
とても似合っている職業だなと思った。
11歳の、背丈もまだ僕の胸くらいまでしかない少女が、
僕にはとても頼もしく感じられた。
電車が駅に到着すると、
少女は、エスカレーターを僕に説明し、乗り方までも確認した。
見事なサポートだった。
改札口に着いて、ありがとうを伝えると、
少女が微笑んだ。
はにかんだ未来の女医さんの笑顔は、桜色に染まっているような気がした。
(2013年3月29日)