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ツツジ

駅前のカフェで、20歳の女の子は、
重たい話でごめんなさいと言いながら、
就職活動や、これからの生き方への不安を打ち明けた。
僕はただ聞いて、
予定通りの人生なんてありえないとつぶやいた。
振り返れば、失敗だらけだよと付け加えた。
彼女は、僕の言葉を受け止めて、
ほんの少し楽になったと笑った。
カフェを出た帰り道、
ツツジの花が咲き出したと知った。
白やピンクの花が咲き出したと聞いた。
小学校の帰り道、
花びらに唇を近づけて、
甘い蜜を吸った日を思い出した。
ただそれだけで、幸せだった。
あれから半世紀の時間が流れた。
イミテーションの幸せに振り回されながら、
大切なものをいくつも失ってしまったのかもしれない。
そして、見えなくなるという予定外の出来事は、
不思議なことに、そんなことをいくつも僕に気づかせてくれることとなった。
見えなくなったのは、幸せなことではありません。
かと言って、不幸なことでもありません。
でも、もう一度、あの青空の下で白やピンクの咲き乱れるツツジを見たいのも事
実です。だから今度、ツツジの花に出会ったら、
そっと唇を近づけてみます。
(2013年4月25日)