水色のマニュキア

休日の午前8時台なのに、
京都市内に向かう電車は、
さすがにゴールデンウィークで込んでいた。
同行の友人は、「結構込んでますね。」とつぶやきながら、
僕の左手を持って、吊革に誘導した。
僕の手が吊革に届くか届かないかのタイミングで、
「どうぞ。」、
前の場所から、席を譲ってくださる若い女性の声がした。
「ありがとうございます。」
座りながらの僕の声と、友人の声が、
自然に同じ言葉で重なった。
爽やかな5月の風に似た朝を感じた。
胸ポケットから、いつもの「ありがとうカード」を取り出して、
座席を譲ってくださった方に渡してくださいと友人に預けた。
自分で渡せればいいのだが、
見えない僕には、
その方が、立ちながら、どちらに移動され、
どこに立っておられるかは判らない。
だから、よっぽどの確信がないと、
自分では渡せない。
友人が、通路の反対側に移動されていた女性に、
そっと、ありがとうカードを渡してくれた。
そして、その後、小声で報告してくれた。
「水色のマニュキア!」
見えなくなって15年くらい、
その間に随分変化したものもある。
爪のおしゃれもそのひとつだろう。
僕が見えていた頃は、
きっと、夜の蝶でも、その色はなかったかもしれない。
今は、若い女の子達は、いろんな色があって、いろんな絵柄があるらしい。
きっと表現のひとつなのだろう。
確かに今朝の若い女性、5月の空の色を思い出した。
そして、似合うと思った。
でももし、これがピアスみたいに、男性まで広がったら、
やっぱり、想像するのもいやだなぁ。
握手の後で、七色の爪のおじさんだったと聞かされたら、
5月の空が一気にどしゃ降りの雨空になるよなぁ。
(2013年5月4日)