水無月

山科駅で地下鉄を降りた。
点字ブロックに沿って歩いていたら販売員さんの声が微かに聞こえてきた。
駅構内のスイーツショップからの声だった。
いろいろなショップが期間限定で入っている。
スイーツ系のショップがほとんどなので僕はいつもはスルーしている。
「水無月いかがですか?6月30日ですよ。」
その言葉に引き寄せられてショップに向かった。
僕は鹿児島県出身なのだが大学時代から京都で暮らし始めた。
昨年滋賀県に引っ越したがそれまでの50年近くを京都で暮らしたということになる。
京都の暮らしの中で6月30日には水無月を食べるようになった。
白いういろうの上面に甘く煮たあずきを散らし、三角形に切った和菓子だ。
抹茶入りの緑色のものもあったような気がする。
夏越しの祓いを行う6月30日に1年の残り半分の無病息災を祈って食べる習慣だ。
あずきの赤い色が厄除けになるらしい。
特別においしいとは思わないのだがそこにあるささやかな祈りをやさしいと感じる。
ういろうの白い色やあずきの赤い色を思い浮かべながら食べる。
ささやかだけど大切な自分の人生に心を寄せる。
今年も半分が過ぎた。
残りの半分、元気で過ごしたい。
(2023年7月1日)