ゴールデンウィークの後くらいから急に忙しくなってしまった。
調べてみたら一週間に一日の休みも確保できていないことに気づいた。
今も11日連続の仕事が続いている最中だ。
2月や3月は一か月の半分くらいはお休みだった。
10月や11月はもう現時点でほとんど予定が埋まっている。
自由業とはそんなものだ。
今月は1時限目からの授業とかが多く、行先も滋賀、京都、大阪と広域だった。
結果的に早朝出発、夜帰宅が続いた。
疲れが貯まる傾向にあるのは気候の変化のせいもあるだろうし年齢のせいもあるのだ
ろう。
自覚はあるから栄養ドリンクをお守りみたいに飲んだりしている。
それでも集中力が少し落ちたりしてしまう。
先日もやってしまった。
大学の講義を終えて、学生達が地下鉄の駅まで送ってくれた時のことだった。
改札口で送ってくれた二人の学生にお礼を伝えて歩き始めた。
もう数えきれないくらい利用している駅だ。
ところが点字ブロックの曲がる場所を間違えたらしい。
いくら歩いてもホームに向かう階段にたどり着けなかった。
途中で間違ったことに気づいて足が止まった。
でも、修正しようとする気力もなかった。
いつか辿り着くと自分に言い聞かせてそのまま動き始めようとした時だった。
「駅員さんにお願いして入れてもらいました。」
彼女の息は少し乱れていた。
走ってきてくれたのが分かった。
学生たちは歩き始めた僕の後ろ姿を見てくれていたのだ。
そしていつもと違う方向だと気付いたのだろう。
彼女は事情を駅員さんに説明して駅構内への入場許可をもらったのだろう。
「先生、行きましょう。」
彼女は実習で学んだサポート方法で僕に肘を持たせた。
何故間違ったかを尋ねたりも一切しなかった。
そして慣れた感じで僕を階段まで誘導してくれた。
「やさしい駅員さんで良かったです。気をつけて帰ってくださいね。」
彼女が微笑んだ。
「ありがとう。また来週。」
僕はそれだけ言って階段を降りた。
やさしい人がもう一人いたことを本当は伝えたかったが飲み込んだ。
4月に初めて出会った時、ほとんどの学生達が見えない人とのコミュニケーションの
経験はなかった。
どう接すればいいか戸惑っていた。
共有した時間が学生達をどんどん変化させていった。
たった数か月で僕と普通にやりとりができるようになってくれた。
学生達が元々持っているやさしさを引き出してくれたのは正しい理解だ。
正しい理解が広がれば、やさしさが広がっていく。
やさしい社会になっていく。
そしてやさしさはきっとどこかで誰かの力になる。
(2024年5月26日)