ランチ

友人達とランチに出かけた。
桂川駅からバスで15分、そこから歩いて10分、京都西山の麓にあるレストランだ。
最初にこのレストランと出会ったのはもう20年くらい前、京都らしさがしっとりと佇
む祇園宮川町だった。
阪急河原町駅から鴨川沿いに歩いて15分、ランチが2千円くらいだったと思う。
今で言うコスパが最高のフレンチの人気店だった。
そのお店が西山に引っ越しされて10年くらいにはなっただろうか。
シェフは食でもてなすという姿勢を極めていかれたのかもしれない。
1日にランチは5組、ディナーは2組、予約客だけということになった。
予約をとるのも難しい時もある。
今回のランチも数か月前に予約をとっていた。
古い農家をリノベーションした店内にはいくつかの部屋がある。
ひとつの部屋に一組の客だ。
その畳の和室にテーブルが置いてあり、落ち着いた空気が迎えてくれる。
見えない僕にはナイフやフォークと一緒にお箸が並ぶ。
前菜だけで3皿、それぞれがメインのような料理だ。
鯛のカルパッチョ、白子のプリンみたいなやつ、フォアグラのソテー、ソースもいろ
いろ説明をしてもらうがいつも記憶できない。
スープは水を一滴も使っていないトマトのスープ、これも絶品だった。
魚料理はスズキ、メインは鹿肉だった。
デザートにもシェフの腕が感じられた。
ここに来れば、料理そのものが芸術だと思う。
歓談しながらの2時間、胃袋と一緒に幸福感が膨らんでいく。
窓からは手入れされた庭に季節の花が見える。
穏やかな時間だ。
見えないはずなのに、見えないことを忘れている。
いや、見えないことはこの空間では問題ないのだろう。
ちらっとそんなことを思って、また幸せが味覚から溶け込んでいく。
店を出て歩きながら、ふと空を眺めた。
平和の中にいるということをしみじみと思った。
今歩いている僕の上に空がある。
この同じ空の下で戦争が行われている。
とにかく早く終わって欲しい。
人間の幸せはきっと平和の中にある。
(2025年5月21日)