不思議なバイク

偶然の再会は近所のスーパーマーケットだった。
僕に気づいた二人が声をかけてくれた。
男性と女性、二人共福祉の専門学校で僕の講義を受講したらしかった。
もう10年くらい前のことだ。
経過した年数に関係なく、僕は学生達をほとんど記憶できていない。
画像のない状態での限られた時間、しかも多くの学校での多くの学生達、記憶するこ
とをあきらめている。
でも僕の方は憶えていてもらえるのはやはりうれしいことだ。
お互いの簡単な近況報告をして、いつかお茶でもしようと別れた。
こういうのはだいたいがリップサービスで実現はしない。
お互いに忙しくしているとタイミングが合わない。
実際に二人との調整も二度くらい流れた。
結局、スーパーマーケットでの再会から半年くらい経って会うことになった。
駅前で待ち合せて2時間弱のランチタイムとなった。
二人は児童福祉の道に進んでいたが、充実した日々を送っていることが分かった。
夢を語る目はキラキラしていたと思う。
昔は僕が教えることがあったのかもしれないが、こうして社会で活躍している減益と
話すと、こちらが教えてもらうことが多い。
豊かな時間だった。
食事は彼がご馳走してくれた。
それも遠慮なく受けることができる雰囲気だった。
お店を出てバス停まで送ってもらおうとした時だった。
「先生、バイクで二人乗り、どうですか?彼が送りますよ。」
彼女が笑顔で勧めた。
エンジンは航空機メーカーが作っているという大きな車体の不思議なバイクだった。
後部は二輪となっているということで安定していた。
ヘルメットがなくても公道を走れるとのことだった。
彼女は僕のリュックサックと折りたたんだ白杖を預かって収納してくれた。
彼女とはそこでお別れ、彼が運転するバイクが走り始めた。
低いエンジン音が気持ちを高めた。
身体が風を切った。
もうほとんど忘れていた久しぶりの感覚だった。
家の前に到着した。
バイクを降りた僕に彼はリュックサックと白杖を順番に渡してくれた。
ひとつひとつの行動にさりげない配慮があった。
「ありがとう。このバイクが一番うれしかった。」
僕は笑いながらつぶやいた。
僕達は固い握手をして別れた。
先ほどのお店で彼が語った言葉が蘇った。
すべての子供達が笑顔になれる社会がいいですよね。」
活躍を願った。
(2025年8月16日)