荒尾市視覚障害者協会の会長から電話があったのは数か月前だった。
同行援護について勉強したいとのことだった。
荒尾市がどこにあるかも分からないまま引き受けた。
zoomで対応できると思ったからだ。
調べてみたら、荒尾市は熊本県、しかも鹿児島本線で行ける場所だった。
10月に鹿児島県での講演が決まっていた僕は、途中下車して対面での講演をすることにした。
こういう時の僕はいつも旅気分だ。
お昼に荒尾市に到着するためには6時前には滋賀県大津市の自宅を出発しなければいけなかった。
タクシーを予約して対応した。
途中、山科駅で新大阪方面行の快速電車に乗り換えた。
新大阪からは九州新幹線さくらだ。
久留米で下車して在来線に乗り換えた。
荒尾駅では会長が出迎えてくださった。
昼食、講演、質疑応答など含めて4時間余りの滞在だった。
講演終了後、夕方には熊本経由で鹿児島中央というハードなスケジュールとなった。
それでも楽しかった。
会場に到着して、準備してくださっていたお弁当を頂いた。
郷土料理の南関あげ巻き寿司が入っていた。
具沢山の巻き寿司でとても美味だった。
からしレンコンなどもあって熊本県を感じた。
食べ終えた時点で、今日はいい研修会になるだろうと思った。
このいい研修会というのは、参加者がということではなく、僕自身がということだ。
食いしん坊なのだろう。
これまでの講演、そういうのはきちんと記憶している。
鎌倉の中学校にお招き頂いた時、担当の先生が江の島へ案内してくださった。
魚介の炭火焼きをご馳走してくださったが、その香りまで憶えている。
でも、先生の名前は忘れてしまった。
先生、ごめんなさい。
北海道の高校にお招き頂いた時、関係者が札幌のジンギスカンをご馳走してくださった。
地元の人がよく知っているお店、そしてよく知っているメニュー、お勧めは確かにとてもおいしかった。
豊橋での視覚障害者の研修会、終了後に会長が連れていってくださった小料理屋さんの手作りちくわがとてもおいしかった。
ブラックサンダーのお菓子は知っていたが、ちくわが有名なのはその時知った。
名古屋での朗読の会の研修会、名物の味噌カツをご馳走してくださった。
名店だったのだろう。
初めて味噌カツをおいしいと思った。
鳥取県での研修、関係者が用意してくださったのはホテルのランチだった。
特別な郷土色はなかったけれども美味しかったのはちゃんと憶えている。
どうやら僕の脳と胃袋は直結しているらしい。
それがそのまま思い出となっている。
そして、今回の荒尾市での講演、たくさんの人に集まって頂いた。
市長さんや議員さんまでおられたのには驚いた。
予想よりも多くの人が来てくださったらしい。
準備していたスリッパがなくなり、関係者は靴下のままだったと聞いて笑った。
お弁当で上機嫌だった僕はいつも以上に笑顔で話をした。
会場の皆さんも僕に合わせてくださった。
見えない仲間と懇談できたのはやはりとてもうれしかった。
皆さんに感謝を伝えて帰路についた。
ずっと僕のサポートをしてくれていた男性がホームまで見送ってくれた。
まだ30歳代の若い男性だった。
最初から最後まで彼は丁寧に、そして心をこめて対応してくれた。
きっと元々が誠実な人なのだろう。
交わした言葉も気持ちのいいものだった。
またいつか一緒に仕事をしたいと思った。
南関あげ巻き寿司と彼と、きっと一緒に記憶に残るのだろう。
そして、名前はまた忘れてしまうかも。
これは画像のせいだということにしておこう。
(2025年10月6日)