チョコレート

ただ漠然とチョコレートが欲しくなった。
特別な意味はない。
ただ妙に食べたくなったのだ。
こういう時、見えないということは結構大変だ。
お店に行くことも、商品を選ぶことも、そこには目が必要だ。
僕は授業の後、学生にサポートをお願いしてみた。
ネパールからの留学生の彼女は快く引き受けてくれた。
ちなみに、今年度の介護福祉士養成の専門学校にはベトナム2名、ネパール9名、フ
ィリピン2名、ミャンマー5名、中国3名の留学生達が在籍している。
日本語力は決して高いとは言えないが、学ぶ姿勢には真剣さがある。
そしてとてもやさしい。
学生達の生活はアルバイトと勉強に追われて、遊ぶ時間などはほとんどない。
ある意味、とても過酷だ。
それでもその笑顔には悲惨さは感じられない。
生きていく強さを感じるのだ。
僕は彼女と京都駅にあるデパートの地下に向かった。
彼女は初めての場所だった。
彼女の日本語力は普通だが英語はペラペラだ。
日本語と英語を使い分けながらの道中は楽しかった。
お店に着いたら、僕が店員さんとコミュニケーションをとった。
「いろいろな種類のチョコレートが入ったクリスマスバージョンのが欲しいんですけ
ど。」
目的の買い物を済ませて、僕達は京都駅に向かった。
「先生、素敵なお店を教えてくれてありがとう。
いつか国に帰る時に家族に買っていくよ。」
それから彼女は自分に言い聞かすように続けた。
「仕事も憶えなくちゃいけないし、学校の勉強もしなくちゃいけない。自分の時間な
んてほとんどない。でも、家族のためだと思うと頑張れるの。」
借金を背負って日本で学んでいる彼女たちは、専門学校を卒業してから日本の介護施
設で5年間働くということになっている。
豊かさって何だろう。
留学生達との交わりの中で時々考える。
決して日本を否定しているのではない。
とにかく彼女が最後まで頑張って、たくさんのチョコレートを持って家族のいる場所
に帰れますようにと心から願った。
(2025年12月9日)