後輩

いつものように電車に乗り込んで、
出入り口の手すりを握った。
電車はだいたい込んでいるし、
空いている席を見つけることはできないので、
元々、座ることをあきらめている。
座りたいのだけど、あきらめている。
優先座席がどこかにあるらしいが、
見えない僕には、それを探すことさえ大変だ。
かと言って、手がかりのない場所で立っているのは大変なので、
出入り口の手すりということになるのだ。
それが、今日は乗車してすぐに、誰かが僕をそっとノックして、
「席空いてるけど、座りますか?」
もちろん僕は、喜んで座った。
座席はいくつか空いていたらしく、
僕に声をかけてくれた女性も、
僕の横に座った。
僕はお礼を言った。
時間帯もお昼過ぎだし、声が若かったので、学生さんですかと尋ねたら、
僕の母校の仏教大学の後輩だった。
しかも、社会福祉学部というところまで同じだった。
彼女が向かう仏教大学は、僕の目的地のライトハウスの次のバス停になる。
今日彼女と出会えて良かったこと。
まず、電車で座れたこと、
駅のホームを、怖いと思わず歩けたこと、
四条大宮の交差点の横断歩道を、
向こうまでちゃんと渡れたこと、
バスの行き先案内の放送を、耳を凝らして聴かずにすんだこと、
バスで座れたこと、
楽しい時間を過ごせたこと、
予定よりも15分も早く到着できたこと、
わざわざ、僕を手伝おうと、
ひとつ手前のバス停なのに一緒に降りてくれた、
やさしい心に出会えたこと、
素敵な笑顔にさよなら言えたこと、
そして、その結果、僕の心も春色に染まったこと。
ありがとう、後輩!
(2013年4月2日)